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原風景とインテリア
田舎育ちの私にとって、原風景というと四方を山にぐるりと囲まれた、温かい人間関係のある(余所からみたら閉鎖的とも言えますが)実家のあたりそのままです。

東京に住んでいた頃、当時住んでいた部屋のあった国立から中央線に乗り、大月で富士急行線に乗り換えて電車に揺られる途中、ずっと窓の外を見ていました。
次第に山が近くなり、谷が深くなり、まだ午後15時ぐらいで十分明るいはずなのに、すでに日は山陰に隠れて、ただ空だけがのほほんと明るくて、時折窓の外に見える人家には、家の前に畑があって、道路にはセンターラインなんてなくて、5月だったら山の緑のところどころに藤のうす紫が散っていて。
そういうのをみて「ああ、帰ってきた」と次第に実感していました。

母の実家はいまだに萱葺屋根です。伯父が結婚するときに、馬小屋だったところに新しいお手洗いと伯父夫婦の部屋を増築したくらいで、黒とも赤茶ともつかない色の廊下や柱が年月を物語る家です。母の実家には蔵もあり、悪いことをするとその蔵に閉じ込めるよ!とよく言われました。

私の両親は自営業で忙しく、保育園の迎えはいつも母の実家に同居するその伯母でした。
午後のお茶をみんなで(従兄弟合計5人と大人6人)いただきつつ、水戸黄門をみて、夕飯時になると100m先の家に帰ります。

当時は何も意識してはいなかったけれど、中学高校と大きくなるにつれ、私は海外への憧れを強くしていました。日本なんて嫌だ、ダサい、大きくなったら海外で仕事がしたい。子供っぽい漠然とした憧れでした。

そんな頃に出会ったのが谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」でした。
日本家屋の白から黒にいたるグラデーションの美しさとか、漆器の美しさとか、今まであたりまえのようにすぐそばにあったのに、その良さをまったく意識せずにいたことに気付いて、なんだかいたたまれなくなりました。
近くにあるものが見えない人間には、遠くのものなんてなおさらよく見えないんじゃないかって、反省しきり。

今私の部屋は白からダークブラウンのグラデーションを主に使っています。
陰翳のコントラストの美しさというものがあると知ってから、部屋の中にあれこれと色を使うより、土の色から光の色へのグラデーションが自分は一番リラックスできるのだというところに落ち着きました。
部屋の家具はダークブラウンで揃えてファブリックはベージュ等のナチュラルカラーが中心です。
壁の白とダークブラウンがうまくつながるように、と正面の壁にはもんがみを張り込んでで中間くらいの色にしてみました。こちら参照
※もんがみ(紋紙)とは、織物を織るときの紋柄を作り出すための指示データで、短冊状のボール紙を、編み糸ですだれ上に連ねたものです。もんがみにあけた穴のあき方で織機の縦糸、横糸をコントロールして柄を作り上げていくものらしいです。

原風景とインテリア_b0027217_192499.jpgこの部屋で一番好きな時間帯は夕暮れの日が沈んだ直後くらい、そろそろ電気をつけようかどうしようかという頃合いです。
左の写真のような昼間の明るい部屋も好きですが、夕暮れ時には陰翳のコントラストが本当に美しくて、ただ何もせず、何も考えずにぼーっと部屋を眺めています。

贅沢を言えば、「網戸がブルーじゃなかったら・・・」というところなのですが、これが賃貸の限界でしょうか。
旦那ちゃんの田舎の家もおばあちゃんがずっと大事に磨きこんだのがよくわかるいい色の柱があります。インテリアというと、デザイナーズの家具とか、北欧の雑貨だとかが浮かびますが、こんな風に家を守って、大切にしてきたことがよくわかるインテリアもいいものだと思います。
by navez | 2005-06-18 19:03 | つれづれ
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